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リーボックが挑んだ幻のスプリットツーリングを現代に甦らせる前衛的なコンセプトモデル

インスタポンプフューリーがその革新的なテクノロジーとデザインで世界を驚かせた90年代半ば、リーボックはハイテク全盛期のスニーカー市場へクッショニングシステムの新機軸を打ち出すべく、あるモデルの製品化を模索していた。アッパーの中足部から後足部までPUMPシステムのエアチャンバーに覆われたランニングカテゴリーのプロトタイプ、ポンプイーヴォー(PUMP EVO)は4個のパーツに分割した集合体としてのソールユニットを搭載。前足部と後足部を深い溝で隔て、中央にスペースを設けることで軽量性や安定性を向上したスプリットツーリングこそ、リーボックが次世代のクッショニングを託すべく期待を寄せたテクノロジーだった。

fig.01 Reebok Pump EVO Prototype (1996)

fig.02 Reebok Split Touring

ところが、1996年にリリースを予定していたポンプイーヴォーは製品化されず、自ずとスプリットツーリングもその真価を世に問うことなく歴史の間に埋もれたまま、20年以上の歳月を過ごしてきた。それでも2018年には突如、スプリットツーリングの先進性が脚光を浴び、斬新なスタイルで登場する。4個のパーツで構成されたスプリットツーリングの形状は当時のまま、くるぶし丈のニットアッパーを新たに採用したソックランR、ナイロンメッシュにレザーのオーバーレイを切り替えたランR96の2型がそれだ。

fig.03 Reebok Sock Run.R (2018)

fig.04 Reebok Run R96 (2018)

ソールユニットを4つの区画に分割する進歩的なアイデアに相応しいアッパーとして採用されたのが膝下丈のソックスタイプ。近年のトレンドであるアッパーのニット技術を極限まで追求したクルーソックス型のソックランRは、軽量かつ通気性に優れ、何よりソックス感覚のコンフォートな履き心地を具現化したコンセプトモデルだ。そのミニマルなフォルムはスプリットツーリングの進歩性に見劣りしない前衛的なスタイルと言えるだろう。もう一方のランR96もまたリーボックが90年代を通して手掛けてきたランニングシューズのエッセンスを抽出し、ミックスアップしたレトロフューチャーなアッパーを採用。その佇まいが時代を先行し過ぎたスプリットツーリングと絶妙にマッチしている。

fig.05 Reebok Sock Run.R Vetements (2017)

余談ながら、このリーボックの実験的なプロダクトにいち早く注目したのがフランス発のファッションブランド「VETEMENTS(ヴェトモン)」で、ソックランRの別注カラーを2017年秋冬コレクションにて発表。ストリートファッションを意識したビッグシルエット主体のコレクションにあって、その独創的なフォルムで存在感を放つソックランRは、なるほどジャカードのテクスチャーなどモードな雰囲気を備えている。90年代後期のスニーカー市場で開花できなかったスプリットツーリングの先進性をファッション的なアプローチで捉えたリーボックには更なる戦略がある。

fig.06 Reebok Sole Fury (2019)

fig.07 Documents of Reebok Split Touring

ソックランR及びランR96がスプリットツーリングを忠実に復刻したのに対し、スプリットツーリングのコンセプトを現代的にアレンジしたのがソールフューリーである。ミッドソールの側面が大きく張り出したモダンな造形がステルス仕様の戦艦を彷彿させる新設計のスプリットツーリングに、ポンプフューリーのDNAを受け継ぐカーボンプレートを内蔵したソールフューリーの成り立ちについては、デザインスケッチなど公開された資料に詳しい。リーボックが90年代半ばに開発し、一旦は歴史の遺物に成り掛けたテクノロジーが20年以上の時を経て、新たな系譜を紡いだのは、やはりスプリットツーリングの潜在的なポテンシャルの高さ故だろう。

 

 

Reebok SOCK RUN.R

深い溝で4つのパーツに分割されたソールユニットで異次元のクッショニングを追求した1990年代半ばのスプリットツーリングを復刻、新たにソックス型のニットアッパーと融合したソックランR。靴下を履くようなフィット感と切り替えのないミニマルなデザインが特徴のアドバンステクノロジー。

Reebok RUN R96

1996年リリース休止のプロトタイプ、ポンプイーヴォーより4つのパーツで構成されたスプリットツーリングを受け継いだコンセプトモデル。アッパーは90年代のパフォーマンスモデルのエッセンスを凝縮したレトロフューチャーなデザイン。時代を経ても色褪せることのないタイムレスなテクノロジー。

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岸 伸和

Nobukazu Kishi Exclusive


  1972年生まれ、神奈川県出身。雑誌『Boon』(祥伝社) にてライターとして活動を開始。90年代のスニーカー全盛期には同誌のスニーカー特集や別冊の多くを担当、以降ライフワークの一環としてスニーカーを嗜んでいる。近年はアパレルブランドのカタログやWEBコンテンツの制作ほか、ブランドやクリエイターの活動をアーカイブした書籍を手掛ける。

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UNDEFEATED / アンディフィーテッド

Web:http://undefeated.jp/

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