
ストリートカルチャーの最前線を走り続けるUNDEFEATED。そのクリエイティブの舵取りを担うのが、ロサンゼルスを代表するセレクトショップ「UNION」のオーナーとしても世界的に知られるChris Gibbs氏だ。ブランドの創成期から深く関わり、"ファミリー"の一員としてUNDEFEATEDの進化を見つめてきた彼に、今回スペシャルインタビューを敢行。
二つのトップブランドを繋ぐ独自の視点、日本という土地から得られるインスピレーション、そしてクリエイティブディレクターとして見据えるブランドの未来像とは。彼の言葉から、UNDEFEATEDの新たなチャプターを紐解いていく。
-UNIONとUNDEFEATED、LAのストリートシーンを象徴する二つのショップに関わるChrisさんですが、そのユニークなキャリアはどのように始まったのでしょうか?
長くなるけど、短く話すよ(笑)。キャリアの始まりは1996年、ニューヨークのUNIONで働き始めたことだね。その後、2003年にロサンゼルスに移ったんだけど、面白いことに、LAで最初に働いたのはUNIONではなくUNDEFEATEDだったんだ。当時、UNDEFEATEDはサンタモニカに2号店をオープンする準備をしていて、僕とAlex Bruzziであの店を立ち上げたんだ。La Brea(1号店)がコアな店だったから、サンタモニカはもっとローカルな、地域に根差したスポットにしたくてね。ベニスビーチ周辺のカルチャーを取り入れて、凄く楽しかったよ。最高のチームだったし、La Brea店と売上を競ったりもしたね。 それから1年くらいしてSupremeがLAにオープンすることになった。Berto(当時UNION)がSupremeに移って、その流れで僕はサンタモニカのUNDEFEATEDからUNIONに戻ることになったんだ。それ以来、ずっとUNIONにいるよ。でも、UNDEFEATEDとはずっと“ファミリー”の関係だ。LAに来た2003年からずっとね。デザインやクリエイティブディレクション、フォトシュートとか、ファミリーとして常にUNDEFEATEDの仕事を手伝ってきたんだ。
-UNDEFEATEDの"ファミリー"として長年関わってこられた中で、現在のクリエイティブディレクターという役割は、どのようにして担うことになったのですか?
実は、最初にLAに来た2003年頃、Eddie CruzからStussy、UNION、UNDEFEATEDのジェネラルマネージャーにならないかとオファーがあったんだ。彼は当時から、僕がUNDEFEATEDのクリエイティブディレクターになることを考えてくれていたみたいだね。でも、僕はUNIONのオーナーとして日々の運営をしていたから、両方をやるのは難しいと感じて、ずっと断ってきたんだ。EddieやJames (Bond) がその話をするたびに、『本気じゃないだろう?』なんて、かわしていたんだけどね(笑)。でもある日、彼らに捕まって『いや、本気なんだ。君にやってほしい』と強く言われてね。それで、どうすれば両立できるかを話し合って、今の形になったんだ。
UNDEFEATEDでの役割は少しずつ変化してきた。初期にはShemagh(シュマグ)のデザイン(※編注:氏が初期に関わった代表的なプロジェクト。2006年発売のAIR FORCE 1 LOW INSIDEOUT 'PURPLE'など、特徴的なパターンが用いられたモデルが知られる)に関わったり、時々プロジェクトを手伝う感じだったけど、約7年前に公式にチームに加わった。最初は『ヘッドデザイナー』として、主にLAで生み出されるプロダクトのデザインを担当していた。シューズコラボレーションやアパレルだね。そして約1年前からは『クリエイティブディレクター』という肩書になった。今は僕が直接デザインするのではなく、デザインチームを監督する役割が主だね。だから今の役割は、どちらかというと『デザインディレクター』に近いかもしれない。

-オーナーを務めるUNIONと、クリエイティブを率いるUNDEFEATED。二つのブランドに対して、どのように向き合い、その違いを意識されていますか?
それは明確にあるね。UNIONでは、僕がクリエイティブに関する最終決定権を持っている。店舗の見た目からパッケージ、広告キャンペーンまでね。僕が直接手を動かすわけではないけれど、全体の方向性を示している。UNIONは、より『ファッションフォワード』で、正直に言うと、より僕自身の個人的な感覚や経験が色濃く反映される場所だ。
一方、UNDEFEATEDは、もっと『普遍的(Universal)』なブランドだと捉えている。スポーツ、クラシック、反骨精神、現状への反抗 (Contrary to the status quo)、そして情熱。これらがキーワードだね。UNDEFEATEDでは、UNIONとは逆に、自分の個人的な感性は極力入れないように意識している。プロダクトのデザインディレクションが中心だけど、マーケティングなども含め、ブランド全体で『チーム』として動くことを重視しているんだ。スポーツブランドらしく、みんなで協力して作り上げていく雰囲気があるね。ファミリーとして長年関わってきたから、ブランドのDNAは理解しているつもりだし、この役割の違いはごく自然なことだと感じているよ。
-長年にわたり頻繁に来日されていますが、Chrisさんをそこまで惹きつける日本の魅力とは、具体的にどのような点にあるのでしょう?
初めて日本に来たのは1999年だったかな。その時から、この国の文化には完全に心を奪われているよ。まず驚いたのは、あらゆるレベルでの『細部へのこだわりと品質』だ。僕がいた場所では、そういうものは主にラグジュアリーな分野に限られていたけど、日本では、もっと日常的な、いわゆるブルーカラーと呼ばれるような製品にも、同じレベルのこだわりが見られたんだ。 そして、日本のショップが見せる『キュレーション』とプロダクトへの『リスペクト』。当時(90年代後半~2000年代初頭)のアメリカのストリートウェアの世界では、Tシャツはただラックに詰め込まれているような扱いだったけど、日本では、たとえTシャツやベースボールキャップであっても、まるで高級品のように丁寧に扱われ、その背景や価値が提示されていた。そのアプローチは、我々が後にUNDEFEATEDのようなスニーカーブティックを作る上で、大きなヒントになったんだ。
-日本のデザインから特にインスピレーションを受ける点は?
常にインスパイアされ続けているよ。25年以上、年に4回来ることもあるけど、毎回新しい発見があるんだ。日本のデザインのユニークさを説明する時、僕はよく『アルファベット』の比喩を使うんだ。アメリカ、フランス、イタリアのデザインは、それぞれ違う言語(英語、フランス語、イタリア語)だけど、使っているのは基本的に同じアルファベット(A, B, C…)だよね。彼らは同じアルファベットを違う方法で組み合わせて、違う言葉やサウンドを生み出している。 でも、日本のデザインは、そもそも使っている『アルファベット』が違うんだ。文字通り、ひらがな、カタカナ、漢字という異なる文字体系があるようにね。だから、例えばアメリカのミリタリーパンツを日本のデザイナーが手がけると、彼らはそれを全く異なる次元から見て、理解し、再解釈して、完全に新しく革命的なものを生み出すことができる。それは単なる言語の違いではなく、根本的な『視点』の違いなんだ。今回も、古着のようなミリタリーBDUシャツをシルクで作って、特殊なウォッシュ加工で独特の風合いを出しているブランドを見かけたよ。アメリカやヨーロッパのデザイナーでは、なかなか思いつかない発想だと思う。この『異なるアルファベット』から生まれるユニークな視点が、僕を惹きつけてやまないんだ。

-日本で独創的なデザインが生まれ、かつ受け入れられている背景には、何があるとお考えですか?
素晴らしいデザインが生まれること自体も特別だけど、それと同じくらい重要なのが、そのデザインを理解し、評価し、そして購入して支える『マーケット(消費者)』が存在することだ。いくら独創的で優れたデザインが生まれても、それを買う人がいなければ、ビジネスとして成り立たず、消えていってしまう。日本の消費者は、デザイナーが生み出すものの価値や、その細部へのこだわりを本当に理解していると思う。だからこそ、多くの海外ブランドも日本で成功を収めることができるんだろうね。デザイナーの創造性と、それを支える消費者の理解。この二つの側面、いわば『陰と陽 (yin and yang)』が揃っていることが、日本のファッションシーンを豊かにしているんだと思う。

-ご自身のクリエイションやプロセス重視の姿勢が、日本のマーケットに響いていると感じる点はありますか? その理由も含めてお聞かせください。
それは、僕自身が『結果 (Outcome)よりもプロセス (Process)』を重視しているからかもしれない。そして、日本の消費者は、世界中のどの消費者よりも、その『プロセス』を理解し、評価してくれる人たちだと信じているんだ。僕がデザインしたプロダクトを買ってくれる時、もちろん見た目が格好良いからという理由もあるだろうけど、それ以上に、そのプロダクトがどのような考えやストーリー、どのような手間を経て作られたのかという、背景にあるプロセスを感じ取ってくれているんじゃないかな。 僕自身、何かをデザインする時は、まず一人の消費者としての視点に立つ。『自分なら何が欲しいか?』『どんなディテールに惹かれるか?』とね。そして、その答えにたどり着くためのプロセスを大切にする。アイデアの着想から、プロダクトデザイン、マーケティングまで、全てが一貫したストーリーになるようにね。ストリートで起きていること、カルチャーの動きを感じ取り、そこからアイデアを拾い上げてプロダクトに落とし込む。いわば『ストリートアップ (Bottom-up)』のアプローチだ。この正直で、地に足のついたプロセスへのこだわりが、日本の皆さんに共感してもらえている理由だとしたら、とても嬉しいね。
-UNDEFEATEDの今後の展望をどのように描いていますか?
これはUNDEFEATED単体の話というより、ストリートウェア業界全体にも言えることかもしれないけど、ここ数年、ストリートウェアはあまりにも人気が出すぎて、少し道を見失っていた部分があったと思うんだ。何をやっても上手くいってしまうような状況の中で、ブランドの核となる部分から少し離れて、手を広げすぎてしまったのかもしれない。 だから今、僕たちがUNDEFEATEDでやろうとしていること、そして既にここ1年半から2年ほどかけて取り組んできていることは、『原点回帰』だよ。『自分たちは何者なのか?』『UNDEFEATEDらしさとは何か?』という問いに立ち返り、ブランドのコア、アイデンティティにもう一度フォーカスすること。それは未来の目標というより、もう既に現在進行形で進んでいることで、プロダクトやマーケティングにも表れ始めているはずだ。例えば、日本にたくさんあった店舗を整理したのも、その一環だね。量より質、ブランドの本質をしっかりと伝えていくことに集中しているんだ。
-その考えを象徴するような言葉や哲学はありますか?
オフィスでよく話している言葉があるんだ。それは『Sometimes you have to lose before you can become undefeated』。『時には、無敗になる前に負けを経験しなければならない』という意味だね。完璧に無敗なものなんて、現実には存在しないだろう?どんな成功も、その過程には必ず失敗や間違いがある。UNDEFEATEDというブランド名だけど、僕たちはその失敗から学び、それを糧にしてより良くなっていくことを大切にしている。この考え方が、今の僕たちを前進させてくれているんだ。
-最後に、日本のファンに向けて、今夏のコレクションの中から特におすすめしたいアイテムや、その楽しみ方を教えていただけますか?
いやあ、デザイナーにね、どのシーズンのどのアイテムがお気に入りかなんて聞かれるのは、まるで親に『どの子が一番可愛いですか?』と尋ねるようなものなんだよね。選ぶのは本当に難しいよ、全部大好きだからね。 とはいえ、いくつかハイライトを挙げるなら… 今シーズンの自信作の一つは、このベースボールシャツだと思うな。生地も、フィット感も、ブランディングも、全部がバッチリ噛み合って、本当に特別な一枚になったんだ。“ゴルディロックス・ゾーン”(※イギリスの童話『3びきのくま』より、何事も「ちょうど良い」最適な状態を指す言葉)って感じで、本当に完璧なバランスに仕上がったと思うよ。 今シーズン全体としては、スポーツウェアブランドとしての自分たちのルーツとか精神性 (ethos) に、本気で立ち返ったんだ。自分たちが何者であるかということに忠実でいられたこと、そして、バスケットボール用のウォームアップパンツやショーツ、それから軽量なナイロン製のトラックスーツ、質の高いジャージやフリースのアイテムみたいに、本当にオーセンティックな“UNDEFEATED”のギア作りに集中できたことを誇りに思ってるよ。 このコレクションでは、本当に基本に立ち返ろうとしたんだけど、うまくいったと思うな。
今回のインタビューを通して、Chris Gibbs氏が自身のデザインプロセスや今後のプロジェクトに込める情熱、そして彼がUNDEFEATEDの未来のビジョンをどのように描いているか、その熱量を感じていただけたのではないでしょうか。